土地の所有権は上空や地下にも及ぶ?範囲や制限も知って安心

「自分が所有する土地は、どこまでが自分のものなのだろう?」と疑問に思ったことはありませんか。土地の所有権は地表だけでなく、上空や地下にも及びます。しかし、その範囲や制限には意外と知られていない法律上のルールが存在します。本記事では、土地所有権がどのように上空や地下に広がるのか、その法的根拠や制限、実際の活用方法まで詳しく解説します。これから所有権について深く知りたい方に、分かりやすくポイントをまとめました。
土地所有権の立体的な範囲(法律上の基本)
民法第207条では「土地の所有権は、法令の制限内において、その土地の上下に及ぶ」と定められており、所有権が上下にも及ぶという立体的な法的原則が明記されています。ただし「法令の制限内において」という限定があるため、上下無制限に所有権が及ぶわけではありません 。
学説上は、「無制限説」「利益説」「相対的制限説」がありますが、現在の通説および最高裁判例(昭和44年12月18日判決)は、所有権が上下に広がるのは「土地の利用に必要な範囲に限られる」と解しています 。
以下の表でまとめます。
| 項目 | 内容 | 法的根拠 |
|---|---|---|
| 民法第207条 | 「法令の制限内において、その土地の上下に及ぶ」 | 民法207条 |
| 通説(相対的制限説) | 所有権は利用の範囲に限って及ぶ | 学説、最高裁判例(昭和44年判決) |
| 制限の存在 | 建築基準法、航空法、大深度地下法などによる制限がある | 関連法規 |
上空における所有権の制限(航空法・建築基準法など)
土地の所有権は「法令の制限内において」上下に及びます(民法第207条)との原則がありますが、上空に関しては航空法や建築基準法、景観法などによって制限が加えられています。まず、航空法では、航空機の最低安全高度として「障害物の上端から300m以上」が設定されており、この高度を超える上空の航行については、土地所有者の承諾は不要とされています。とはいえ、300m以内の低空飛行では所有者の“利益の存する限度”を超えない範囲として、承諾が必要となる可能性があります。
次に、建築基準法に関してですが、第一種・第二種低層住居専用地域では建物の高さは10mまたは12mと都市計画で厳格に制限されています。加えて、都市計画法や景観法に基づく景観地区では、更なる高さ制限が定められる場合もあり、地域によって制限の内容は異なります。これらの法令は、空間の利用や建築物の設置に対する法的な上限を示すものであり、土地所有権を上空に及ぼす際の重要な要素となります。
以下の表は、上空に関する所有権の制限を整理したものです。
| 法令・概念 | 概要 | 影響範囲 |
|---|---|---|
| 航空法(最低安全高度) | 障害物(建造物等)上端から300m以上は承諾不要 | 飛行空域の上限設定 |
| 建築基準法(絶対高さ制限) | 低層住居地域では10mまたは12mに制限 | 建築可能な高さの上限 |
| 景観法・都市計画法 | 景観地区などで高さ制限や外観制御あり | 地域ごとの空間利用上の制約 |
以上のように、土地所有権が上空に及ぶ範囲は法令によって様々な制限が課されており、単に“何メートルまで所有権が及ぶ”というではなく、法的規制や“利益の存する限度”という観点から総合的に判断される必要があります。
地下における所有権の制限(大深度地下法など)
土地所有権は、法律上、上下に及ぶものとされていますが、その及ぶ範囲には法令による制限があります。これは民法第207条に基づく原則ですが、実際には通常使用されない深さの地下、いわゆる「大深度地下」に関しては、公共的利用の法制度によって特別に整理されています。
「大深度地下の公共的使用に関する特別措置法」(以下「大深度地下使用法」)は、公共の利益となる事業の円滑な遂行や地下空間の合理的な利用を図る目的で、2001年(平成13年)4月1日に施行された法律です。この法律により、地表からの深さが地下40m以深、または支持地盤上面から10m以深のいずれか深い方を「大深度地下」と定義し、公共性のある事業に対して行政の認可を経て使用権を設定できる枠組みが設けられました 。
この制度が適用される対象地域は、都市圏(首都圏・近畿圏・中部圏)の市街地で、対象となる事業は道路、鉄道、上下水道、電気・ガス・通信など多岐にわたります 。
制度の概要を簡潔に整理した表を以下に示します。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象深度 | 地下40m以深 または 支持地盤上面から10m以深(深い方) |
| 対象地域 | 首都圏・近畿圏・中部圏の既成市街地など |
| 対象事業 | 道路、鉄道、上下水道、電気・ガス・通信など公益事業 |
| 補償の取扱い | 原則不要。ただし例外的に具体的損失があれば請求可 |
さらに、この制度は法律上の整備だけでなく、安全・環境への配慮も求められており、関係機関による安全指針の整備や、大深度地下使用協議会による調整が行われています 。
土地所有権の上下空間利用を巡る制度的手法(区分地上権など)
土地所有権に基づく上下空間の利用について、空間を特定して権利を設定する制度として「区分地上権」があります。これは民法第269条の2に基づき、「工作物を所有するため、地下又は空間に上下の範囲を定めて地上権の目的とすることができる」と明記された制度です。特定の空間部分(地下地下○m~○m、上空○m~○mなど)のみを使用できるように設定される点が特徴です。
制度の役割として、区分地上権は特定範囲における工作物の設置目的に使用されます。具体的には、地下鉄のトンネル、高架道路、送電線、橋梁などが該当し、所有者以外の第三者が土地全体ではなく、特定上下空間の一部を利用できるようにする仕組みです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 区分地上権の定義 | 地下・上空の特定空間を対象とした地上権 |
| 利用目的の主な例 | 地下鉄トンネル、高架道路、送電線などインフラ施設 |
| 制度上の特徴 | 範囲限定かつ登記による対抗要件が必要 |
まとめ
土地の所有権は、上空や地下にも及ぶとされていますが、法律によるさまざまな制限があります。航空法や建築基準法、大深度地下法など各種法令によって、所有権の範囲は実際には限定されています。特に、現実的に利益を及ぼす範囲内でのみ権利が認められ、都市インフラや社会活動との調和が求められます。これから土地の空間利用を検討する方は、法的な枠組みと適切な権利設定の重要性を理解しておくことが大切です。